⑪の続き
2019年9月15日
朝からさらにタイヤの空気を抜く作業を行う。オフロードであり、砂地であり、その砂が深い状況ではタイヤの空気圧を抜いて臨むのが定石とされる。
シンプソン砂漠の中心地にさしかかり、通常道路の半分ほどの空気圧としている。タイヤはすっかりペチャンコに。
シンプソン砂漠は全てが完全に砂に覆われているのではなく、砂丘を超える時に深い砂が現れるイメージで、エリア全体が深い砂に覆われているわけではない。突然瓦礫道が出てくることもあれば、いきなりズブズブの深い砂のエリアに入ることもある。固い地面もあれば、そうでないところもあるといった感じ。
空気圧も調整しつつ、進む。この日リッグロードにあるいくつもの高い砂丘を超えるのだが、昨日同様、その山を超えられず、登坂途中ではまる。あと一歩で動けなくなる。こうなると上へと進むのはまず無理な話。
タイヤのまわりの砂をどけ、重力を借りて何とか坂下へとはい出る。で、勢いをつけて超える。なるほど、この地を横断するのははそう簡単ではない。それでも恐るべき空白とも言われるこの砂漠の状況が何となくわかってくる。
そんな大島さんの野望でもあったシンプソン砂漠での横断は、消化器官の不調に加えて、ぎっくり腰に陥るという最悪の状態。昨日「車での移動」を宣言した。なのでこの日は車での移動がメイン。
自転車移動がなくなったこの日は、当然ながら車での移動。砂丘地帯を超えるにあたり、結局1日での走行距離は車でも150㎞も行ければ御の字。平均時速は20㎞いかない程度。
砂漠の真ん中に差し掛かりそれぞれの砂丘も高さを増し、さらには砂の深さ、えぐれ具合も今までのものとは比較にならないものも出てきている。砂が深い分、他の車の通ったタイヤ痕が運転する車のハンドルさばきを難しくさせる。
スキー場で新雪が大量に降った翌朝、スキー場関係者が圧雪した場所で最初のシュプールを描くのは何とも気持ちがいいものだが、誰かが踏み荒らした新雪の後は滑りにくくなることに加え、一段上の技術が求められる。これに似ている気がする。(んー・・・わからんか?例えが悪いな・・・。)
荒れた砂丘を超えるとまたガタガタの固い道、また砂丘、ガタガタ道を繰り返す。地図を見るといくつもの砂丘が並んでおり、全てが車での移動であったとしても4日を要する。気温は冬の時期でも35度~40度となる気温。自転車で横断しようという大島さんの冒険がかなり究極のものであったこともこの地に来てみてようやく理解した。
「運転したい!」とハンドルを握る下痢で腰痛持ちの大島さん
距離にして150㎞ほど車で走った頃だろうか。
今までさんざん走ってきた東に向かって砂丘を超えるRig Road(リッグロード)、WAAラインを抜け、北方向に向かうKnolls Track(ノルズトラック)へと進路を変更する。
(元々の予定ではリッグロードをひたすら東へといくプラン)
これには理由が。
元々はリッグロードをひたすら東へと向かう予定だった。比較的走りやすい道とされ、他の平行する道よりも速度があげられる。と書物にあったことがその理由。だが、実際に走ってみるとそう安易に考えられるレベルではないことがわかる。
この道で、複数回砂丘に埋もれ、その度に車を後ろに下げ、やり直しを繰り返してきた。それらを考慮し、以下3点を理由に経路変更を決定。
第一に、このリッグロード(Rig Road)はメインの通りではなくシンプソン砂漠の最南端の道で車が少ない。1日に1台しかすれ違わないような通りで、何かあっては困る。という考え。
第二に、ノルズトラック (Knolls Track) は元々の予定では走行しないものとしていた為、下調べが出来ておらず、また細い道で砂に埋もれた道である可能性もあったが、砂丘の間を走行する為、車であれば行けるであろう。との理解。
第三に、ルート短縮。元々のリッグロード走行は自転車で横断する予定だった道。車での移動となった今、ルート変更で短縮出来るほうがいい。との考え。
そして、おまけで、大島さんは車の乗り下りだけで背中の痛みに耐えて悶絶していたのに、この先で再度自転車に乗りたい。と言う。だが、昨日歯ぎしりしながら、唸って痛みに耐えていた人が、丸1日経っていないのにまた乗る???
ヘンタイだ・・・。とは言っても本人はその気で、フレンチラインに到着後、自転車に跨ることに。
途中WAA Lineとノルズトラックの交差近くで湖を通る。とはいえ、砂漠の中の湖のほとんどは干上がっていて、元々塩湖であった為、このように塩で白くなっている。
近くに寄るとこんな感じ。
ほどなくしてエリマキトカゲとも遭遇。
なぜか逃げなかったな。襟をひろげることもなかったが・・・。被写体になってくれてありがとう。
大島さんのセカンドチャレンジとなるフレンチラインに到着。
大島さんは痛い痛い。と言いながら、愛車に荷物を積み始める。と同時にディンゴにも遭遇。
ディンゴは先住民族アボリジニが持ち込んだオオカミ犬。肉食で群れで行動することが多く、実際に人間の赤子を襲ったりすることもあるので要注意。夜中に餌を求めて徘徊しているので、砂の上に肉球の跡を残していく。
元々細身の犬だが、このディンゴは極端に痩せているように見える。我々を腹を空かせた同類とみなしたか、早々に行ってしまった。
大島さんは日中のハエの多い時間帯に「大便する。」と茂みへ消えていく。セカンドチャレンジ前に体を軽くしたいらしい。
『ずっと下痢してるからそんなに溜まってないと思うけどな・・・。』フレンチラインを東へと進んでいく砂丘越えコースへ挑む。
フレンチラインもまた砂が深い。今まで何度となく登坂で車が登れきれずに止まってしまったリッグロードに似ている。
それでも不屈の精神で臨む大島さんは、荷物を積んだ自転車で塩湖超えを含む15㎞を走ったのであった。
もちろん砂丘越えも。今までもこの程度の坂は超えてきたものの、腰痛めている状態でこんな砂地で自転車押し上げていたら・・・。こちらが心配になる。
一体その気力はどこから湧いてくるんだ?そこまでしてやるのか?実際こんな状態でやっている。
今まで大島さんがやってきた極地自転車旅がどのレベルであったのかはわからない。でも素人でも南極を走るだのという事が、普通の旅ではないことは容易に想像がつく。それをも超えるのが砂丘であると彼は言う。
そういうところに来ているんだな・・・。この日はフレンチラインで宿をとる。
⑬へ続く。
コメント
[…] ⑫へ続く。 […]